【祝!世界一】スーパーコンピュータ「富岳」の全容を暴く!!

皆さん、こんにちは。ロイです。

6月23日に理化学研究所が運用しているスーパーコンピュタ「富岳」が世界一位に輝いたことが発表されましたね(#^^#)

日本のスパコンが世界一の栄冠に輝いたのは2011年に「京」が獲得して以来の快挙になります。
しかも今回は「TOP500」、「HPCG」、「HPL-AI」、「Graph500」の4部門で世界一を同時に達成しました。これは世界初の快挙になります。

一時は「2位じゃダメなんですか」という発言により研究開発費用を大幅に削減され、アメリカ・中国に大きく後れを取ってしまっていました。

しかし、この度の受賞はまだまだ日本の技術力も捨てたものではないと再確認させられました。そして、同じIT業界で仕事をする人間としては興奮すると同時に負けられないという気持ちにさせられました

そこで今回はスーパーコンピュータ「富岳」の性能や出来ることなどをまとめ、「富岳」の全容を暴いていこうと思います。

受賞した項目

「富岳」のスペックや性能を語る前に、今回世界一を獲得した4項目を見ていきたいと思います。

今回のランキングは「International Supercomputing Conference (ISC 2020)」によって発表されたものです。
日本語で表すと「国際スーパーコンピューティング会議」になります。つまりはスーパーコンピュータの国際学会にあたるものです。

この学会は年1回行われており、「ISC」は毎年春にヨーロッパで開催されています。これとは別に毎年秋にアメリカで開催されている「SCSupercomputing Conference)」と呼ばれる学会もあります。そして、スパコンの性能ランキングはこの2つの会議で年2回発表されます。

 

・TOP500

まず、1つ目の項目は「TOP500」です。

この項目は「LINPACK」と呼ばれるコンピュータの総合的性能を計測・評価するベンチマークテスト(※)を基に決定されています。
このランキングはドイツのマンハイム大学、アメリカのテネシー、ローレンス・バークレイ米国立研究所によって作成されています。

つまりは、スーパーコンピュータの総合ランキングにあたるものです。

(※)ベンチマークテストとは・・・ベンチマークとは、性能や成績などの評価手法の一つで、同種の他の対象と同じ条件で測定値を求め、相対的な比較を行う方式。また、その際に比較に用いる対象や指標のこと。

TOP500公式サイト

2020年6月に発表された最新ランキングは以下の通りになっています。

順位 名称 保有国 ベンダー
1位 富岳 日本 富士通
2位 サミット アメリカ合衆国 IBM
3位 シエラ アメリカ合衆国 IBM
4位 神威・太湖之光 中華人民共和国 NRCPC
5位 天河2号 中華人民共和国 NUDT
6位 HPC5 イタリア共和国 Dell
7位 セレネ アメリカ合衆国 Nvidia
8位 フロンテラ アメリカ合衆国 Dell
9位 マルコーニ-100 イタリア共和国 IBM
10位 ピッツ・ダイント スイス連邦 Cray

 

過去10年間の歴代1位一覧はこちらになります。

ランキング発表年月 名称 保有国 ベンダー
2020年 6月 富岳 日本 富士通
2019年 11月 サミット アメリカ合衆国 IBM
6月
2018年 11月
6月
2017年 11月 神威・太湖之光 中華人民共和国 NRCPC
6月

2016年

11月
6月
2015年 11月 天河2号 NUDT
6月
2014年 11月
6月
2013年 11月
6月
2012年 11月 タイタン アメリカ合衆国 Cray
6月 セコイア IBM
2011年 11月 日本 富士通
6月
2010年 11月 天河1号A 中華人民共和国 NUDT
6月 ジャガー アメリカ合衆国 Cray

 

これらを見ていただくと分かるように過去10年間は中国とアメリカが1位を獲得しています。
これ以前は日本とアメリカが1位を獲得していました。

・HPCG

次に2つ目の項目は「HPCG」です。正式名称は「High Performance Conjugate Gradients」です。

産業利用など実際のアプリケーションで良く使われる計算手法である共役勾配法の処理速度を評価するものです。「LINPACK」とは異なる観点で性能を評価する指標になっています。

もともとは「LINPACK」の代わりとなるベンチマークテストとして開発されたものではあるが未だ置き換えるほどには至っていません。

共役勾配法とは・・・物理現象をコンピュータでシミュレーションする場合、大規模な連立一次方程式として解くことが多いです。連立一次方程式を解く方法として、解を直接求める直接法と、反復計算を行うことで正しい解に収束させて行く反復法があります。共役勾配法は、この反復法の一つであり、前処理を組み合わせることにより、早く正しい解に収束させることができます。コンピュータシミュレーションの世界ではよく使われています。

HPCG公式サイト

2020年6月に発表されたランキングは以下の通りです。

順位 名称 保有国 ベンダー
1位 富岳 日本 富士通
2位 サミット アメリカ合衆国 IBM
3位 シエラ アメリカ合衆国 IBM
4位 HPC5 イタリア共和国 Dell
5位 トリニティ アメリカ合衆国 Cray
6位 セレネ アメリカ合衆国 Nvidia
7位

AI BRIDGING CLOUD INFRASTRUCTURE (ABCI)

日本 富士通
8位 ピッツ・ダイント スイス連保 Cray
9位 神威・太湖之光 中華人民共和国 NRCPC
10位 ヌリオン 大韓民国 Cray

・HPL-AI

3つ目の項目は「HPL-AI」です。

「TOP500」「HPCG」では、連立一次方程式を解く計算性能でランク付けが行われています。

どちらも科学技術計算や産業利用の中で多く用いられてきた倍精度演算(10進で16桁の浮動小数点数)のみで計算することがルールに定められていました。

しかし近年、GPUや人工知能向けの専用チップで低精度演算(10進で5桁、もしくは10桁)の演算器を搭載し、高性能化したコンピュータが多数現れています。

これらの高性能演算能力がTOP500に反映されないとの実情があり、ジャック・ドンガラ博士を中心にLINPACKベンチマークを改良し低精度演算で解くことを認めた新しいベンチマークHPL-AIが2019年11月に提唱されました。

マシンラーニングのベンチマークとしてはMLPerfなどがあるが、もっと簡単にハードウェアの性能だけを比較したいという場合に向くベンチマークとしてHPL-AIが提案されています。

HPL-AIはLINPACKが連立一次方程式をLU分解(※1)を用いて解く際に, 低精度計算で実施することを認めています。しかしながら、倍精度計算よりも計算精度が劣ってしまうため、引き続き反復改良(※2)と呼ばれる技術で倍精度計算と同等の精度にすることを求めています。つまり、2段階の計算過程で構成されたベンチマークとなっています。

このように低精度での行列式の積和が主体の計算となり、これはニューラルネットの計算と同じような計算になります。そして、ベンチマーク全体としては使い慣れたHPLと同じように実行すれば良いので使い勝手が良いものになっています。

HPL-AIは2019年11月にルールが公表されたため、今回が初めてのベンチマークランキングの発表となります。

 

(※1)LU分解・・・
 連立一次方程式を解く方法の一つ。解法の途中で行列を下三角行列(Lower-triangular matrix)と上三角行列(Upper-triangular matrix)の積の形に分解するため、LU分解法と呼ぶ。

(※2)反復改良・・・
 LU分解などの方法で連立一次方程式を解いた近似解には真の解との誤差が含まれてしまいます。その誤差を用いた連立一次方程式を再度解いて、近似解を修正することでより真の解に近い答えを得る方法。

HPL-AI公式サイト

・Graph500

最後の項目は「Graph500」です

近年では高性能計算コンピュータ(スーパーコンピュータ)を用いて大量のデータ処理(ビックデータ活用)を行う需要が増加してきています。

そのような処理の性能の特性や必要とされるアーキテクチャの要件は、HPLやHPCGとは根本的に異なるため、新たな性能指標が必要になってきました。

そういったことからグラフ探査性能ベースのベンチマークに基づく性能ランキングであるGraph500が誕生しました。

Graph500では性能指標として、TEPS(Traversed Edges Per Second 1秒間にたどるグラフのエッジ数)が用いられています。 また、Graph500のベンチマークに対する電力効率を測るため、TEPSを消費電力で割った値(TEPS/W)を性能指標としたランキングGreen Graph500も存在しています。

TEPSの値が高ければ高いほど、より高速にグラフ処理を行うことが可能であることになる。ビッグデータを用いたデータマイニングや、SNSのソーシャルグラフの分析、Web検索、ITS(高度道路交通システム)などで重視される大規模データ処理の性能を計測する指標として注目されています。

Graph500で採用されているベンチマークは
1.グラフ構築
2.幅優先探索
3.単一始点最短経路
の3つからなっています。

グラフ構築は性能ランキングには関係なく、幅優先探索と単一始点最短経路についてのみ個別にランキングされます。

Graph500公式サイト

2020年6月に発表されたランキングは以下の通りです。

順位 名称 保有国 ベンダー
1位 富岳 日本 富士通
2位 神威・太湖之光 中華人民共和国 NRCPC
3位 サミット アメリカ合衆国 IBM
4位 SuperMUC-NG ドイツ Lenovo
5位 NERSC Cori – 1024 haswell partition アメリカ合衆国 Cray
6位 天河2号 中華人民共和国 NUDT
7位 ヌリオン 大韓民国 Cray
8位タイ チューリング フランス共和国 IBM
8位タイ ブルージュール イギリス IBM
8位タイ ディラック イギリス IBM
8位タイ ズンブロタ フランス共和国 IBM
8位タイ アボカ オーストラリア IBM

 

富岳の性能・仕様

理化学研究所計算研究センターが運用している「富岳」。

開発ベンダーは国内大手メーカーである「富士通」です。また、部品などの調達のほとんどを日本国内メーカーに委託しており、正真正銘日本の技術の結晶と呼べるマシンに仕上がっています。

「富岳」の開発は4つのコンセプトのもと行われました。
1.社会と科学の課題の解決を最優先
2.世界トップレベルの性能へ
3.国際協力でより高い次元へ
4.「京」の資産を継承

それでは、「富岳」の詳細のスペックを見ていきましょう。

総ラック数・・・432ラック
総ノード数・・・158976ノード(参考:「京」88128ノード)

総理論性能
 総演算性能
 ①通常モード(CPU動作クロック周波数2GHz)
  ・倍精度理論最高値(64bit)・・・488ペタフロップス
  ・単精度理論最高値(32bit)・・・977ペタフロップス
  ・半精度(AI学習)理論最高値(16bit)・・・1.95エクサフロップス
  ・整数(AI推論)理論最高値(8bit)・・・3.90 エクサップス
 

 ②ブーストモード(CPU動作クロック周波数2.2GHz)
  ・倍精度理論最高値(64 bit)・・・537 ペタフロップス
  ・単精度理論最高値(32 bit)・・・1.07 エクサフロップス
  ・半精度(AI学習)理論最高値(16 bit)・・・2.15 エクサフロップス
  ・整数(AI推論)理論最高値(8 bit)・・・4.30 エクサオップス
 

 総メモリ容量・・・4.85 PiB(ペピバイト)
 総メモリバンド幅・・・163 PB/s

(参考値)「京」との比較(「富岳」ブーストモード時)
 ・倍精度理論最高値(64 bit)・・・約48倍
 ・単精度理論最高値(32 bit)・・・約95倍
 ・半精度(AI学習)理論最高値(16 bit)・・・約190倍
 ・整数(AI推論)理論最高値(8 bit)・・・1500倍以上
 ・総メモリバンド数・・・約29倍

(参考)使用されている単位の解説
 ・ペタ(Peta)=10の15乗 エクサ(Exa)=10の18乗
 ・ペピバイト=2の50乗バイト(テラバイトの一つ上のペタバイトと同義)
 ・フロップス(FLOPS: Floating Operations Per Second):1秒あたりの(浮動)小数点演算性能
 ・オップス(OPS: (Integer) Operations Per Second) :1秒あたりの整数演算性能

(参考)倍精度理論と単精度理論とは
・まず、なぜ小数点で演算性能を表現するのか?
 整数演算は非常に短時間でできて回路の実装が容易であるため性能を競う対象として不適格だからです。また整数系のアプリケーションはデータレベル並列性が低い傾向にあることにも起因しています。整数演算を並列化するハードウェアを計算機側で用意してあげたところで使い切れないためです。整数よりも演算に時間がかかり応用分野が広い小数演算の回数でコンピュータの速さを競うのがスパコンでもパソコンでも同じです。

・倍精度理論と単精度理論とは?
 倍精度は64bitで小数を表現 単精度は32bitで小数を表現しています。つまりはどこまで細かく小数点以下の計算を行うことが出来るかということです。もちろん64bitつまり倍精度理論のほうがより高い精度で計算することが可能です。当然ながら128bitの4倍精度の浮動小数点数のFLOPSも定義できます。このようにFLOPS値は1つではなく、浮動小数点数の精度によって大きく変化するので、どの小数精度におけるFLOPS値なのか区別することが重要です。

(参考)メモリバンド幅とは
 単位時間あたりどれだけのデータをメモリから読み出せるかという値で、単位時間あたりどれだけの貨物(データ)を運べるかと同じ性質の値です。

 
 
ノード仕様
・命令セットアーキテクチャ・・・Armv8.2-A SVE 512 bit
・演算コア数・・・48コア
・アシスタントコア数・・・計算ノード: 2 コア IO兼計算ノード: 4 コア
・演算性能
 ①通常モード(CPU動作クロック周波数:2GHz)
      倍精度: 3.072 テラフロップス, 単精度: 6.144 テラフロップス, 半精度: 12.288 テラフロップス
   ②ブーストモード(CPU動作クロック周波数:2.2GHz)
  倍精度: 3.3792 テラフロップス, 単精度: 6.7584 テラフロップス, 半精度: 13.5168 テラフロップス
・キャッシュ
 ①L1キャッシュ
  L1D/core: 64 KiB, 4way, 256 GB/s (load), 128 GB/s (store)
 ②L2キャッシュ
  L2/CMG: 8 MiB, 16way
  L2/node: 4 TB/s (load), 2 TB/s (store)
  L2/core: 128 GB/s (load), 64 GB/s (store)
・メモリ・・・HBM2 32 GiB, 1024 GB/s
・インターコネクト・・・Tofu Interconnect D (28 Gbps x 2 lane x 10 port)
・I/O・・・PCIe Gen3 x16
・テクノロジー・・・7nm FinFET
 
ストレージ
・第1階層
 グローバルファイルシステムのキャッシュ
 テンポラリーファイルシステム
 ・計算ノードのローカルファイルシステム
 ・ジョブの共有ファイルシステム
・第2階層
 Lustreベースのファイルシステム
・第3階層
 商用クラウドストレージ(2020年8月時点:準備中)
 
プログラミング環境
・コンパイラ
 Fortran2008 & Fortran2018サブセット
 C11 & GNU拡張仕様・Clang拡張仕様
 C++14 & C++17サブセット & GNU拡張仕様・Clang拡張仕様
 OpenMP 4.5 & OpenMP 5.0サブセット
 Java
・並列プログラミング
 XcalableMP
 FDPS
・スクリプト言語
 Python + Numpy + Scipy, Ruby
・科学技術計算用ライブラリ
 BLAS, LAPACK, ScaLAPACK
 SSL II (Fujitsu)
 EigenExa, Kevd, Batched BLAS, 2.5D-PDGEMM
 
システムソフトウェア
・OS
 Red Hat Enterprise Linux 8
 McKernel
・MPI
 Fujitsu MPI (Based on OpenMPI), RIKEN-MPICH (Based on MPICH)
・File IO
 Application-oriented file IO libraries
 
以上が「富岳」の詳細スペックになっております。
 
 

「富岳」で出来る事・期待されている事は?

これまで、「富岳」の受賞した項目と詳細なスペックを見ていただきました。

分かる方からすると「どんだけすごいねん」って感じですね(笑)

逆に分からない方からすると「フーン。で、何ができるわけ」って感じですかね(笑)

そこで、今「富岳」に出来る事や期待されていることを簡単にお話ししていきます。

現在、理化学研究所計算科学研究センターでは重点的に取り組むべき社会的・科学的課題を決定し「富岳」を利用してその課題解決のための研究・開発が進んでいます。

カテゴリー1:健康長寿社会の実現

一つ目の課題は、「健康長寿社会の実現」です。

要するに、医療分野に対する課題になります。

このカテゴリーでは、主に新薬の創薬や最適な治療法の発見などの課題が研究されています。

研究内容を数課題ご紹介していきましょう
生体分子システムの機能制御による革新的創薬基盤の構築(2020年3月に終了)
 現在、創薬・製薬の業界では新薬の創出が激減し、開発費は膨れ上がるという負の連鎖に陥っています。その原因としては簡単に創薬・製薬している薬がすでに完成しきってしまい、残っているものが創薬・製薬が非常に難しい物になっているということです。
 病気の原因になる物質などに結合してその原因物質の働きを抑制する物質が薬になります。創薬ではそのように原因物質に対して有効な働きをする物質の候補を絞り込み、病気に対する効薬を上げ、少しでも副作用をなくすことが必要になります。この創薬という作業には多くの時間と開発費用が必要になってしまいます。そして、現在では創薬が難しいものが残っているため以前よりも時間・費用がかさんできています。
 そこで、スーパーコンピュータ「富岳」を用いて、創薬に必要な実験過程をコンピュータシミレーションに置き換え開発プロセスの効率化、開発費の低減、さらには薬のつくり方を革新し、薬効が高く副作用の少ない新薬の創出を促進します。

引用元:https://www.r-ccs.riken.jp/jp/fugaku/pi/kadai1

 

②「マルチスケール心臓シミュレータと大規模臨床データの革新的統合による心不全パンデミックの克服(2020年8月時点、進行中)
現在、日本には心筋梗塞や心筋症、弁膜症などといった様々な原因から引き起こされる心不全の患者が約120万人いるとされています。そして、その数は年々増加しています。
 本研究では、様々な心疾患のデータと大規模な臨床データを基に心不全の早期発見や治療法の改善などを行っています。

③「大規模データ解析と人工知能技術によるがんの起源と多様性の解明」

 

カテゴリー2:防災・環境問題

2つ目の課題は「防災・環境問題」です。

こちらは読んで字のごとくの内容です。

研究内容
地震・津波による複合災害の統合的予測システムの構築(2020年3月に終了)
 2011年の東日本大震災の大きな教訓は、過去の経験からでは予測が困難な想定外の地震・津波に備える必要があることです。想定外を減らすためには、季節や時間、場所、天気、地震・津波の規模など、さまざまな条件のシナリオについて、どのような被害が起きるのか統合的な予測を行う必要があります。「京」であっても、一つのシナリオの予測にもかなりの計算時間がかかるため、スーパーコンピュータ「富岳」の登場に期待が寄せられています。将来は、「富岳」で築いた地震・津波の統合的予測システムを、国や自治体などが防災や災害復旧に有効利用できるように実用化を進めようとしています。

引用元:https://www.r-ccs.riken.jp/jp/fugaku/pi/kadai3

 

 

②「大規模数値シミュレーションによる地震発生から地震動・地盤増幅評価までの統合的予測システムの構築とその社会実装」(2020年8月時点、進行中)
 ・国の被害想定のための地震・津波災害予測におけるアプリケーション活用。
 ・これまで開発してきた大規模有限要素を用いた計算コードが、国の被害想定のもとになる長周期地震動計算や津波初期水位計算で用いられるようアプリケーションの改良を国と連携して実施する。
・建築・土木系企業等が、国の想定と同等の計算ができる仕組みを構築する。

③「防災・減災に資する新時代の大アンサンブル気象・大気環境予測」(2020年8月時点、進行中)

カテゴリー3:エネルギー問題

3つ目の課題は「エネルギー問題」です。

本課題では以下の様な研究が行われています。

①「革新的クリーンエネルギーシステムの実用化」(2020年3月、終了)
 コストや環境に対する影響、安全性や資源量などあらゆる面で優れたエネルギー源はありません。複数の革新的クリーンエネルギーシステムの実用化を進める必要があります。スーパーコンピュータ「富岳」により、巨大なエネルギーシステムの中で起きるさまざまな現象の過程を、条件を変えて何度でもシミュレーションできるようにします。そのようなシミュレーションにより、二酸化炭素(CO2)を出さない石炭火力発電の鍵となる石炭ガス化炉、低コストで耐久性の高い燃料電池、洋上の大規模な風力発電施設、核融合発電の実用化を加速します。

引用元:https://www.r-ccs.riken.jp/jp/fugaku/pi/kadai6

 

②「スーパーシミュレーションと AI を連携活用した実機クリーンエネルギーシステムのデジタルツインの構築と活用」(2020年8月時点、進行中)

  • 石炭ガス化炉と超臨界圧CO2ガスタービン、及び洋上ウィンドファームを対象に、それぞれのマルチフィジクス・マルチスケール統合シミュレーション(スーパーシミュレーション)を構築し、それとAI技術を連携活用し、デジタルツインを構築します。
  • 燃焼システム用次世代CAEコンソーシアム、次世代CAEを活用する風力産業コンソーシアム(仮称)、日本風力発電協会、日本海事協会、IEA Windとの連携を通して、国内外への本開発技術の普及体制を整えます。
  • 開発する各アプリケーションの一般産業界への適用・普及活動、産業界向け応用解析に関する講習会を実施し、燃焼機器、流体機械、伝熱機器等をあつかう幅広い産業界の競争力強化に貢献します。

 

 

カテゴリー4:産業競争力の強化

4つ目の課題は「産業競争力の強化」です。

①「近未来型ものづくりを先導する革新的設計・製造プロセスの開発」(2020年3月、終了)
 社会のニーズに応える付加価値の高い新商品・技術を生み出すために、設計と製造のプロセスに革新をもたらすシミュレーションをスーパーコンピュータ「富岳」で実現します。具体的には、送風機やポンプなどのターボ機械、自動車、航空機などを対象にした設計と、それらの設計を具体化する溶接と炭素繊維強化プラスチック(CFRP)成形のシミュレータを開発します。例えば、自動車の車体の周りやエンジンルーム内の空気の流れ、ハンドル操作と車の運動、車内の騒音などを連携してシミュレーションできる統合設計システムをつくり、設計を少し変えたときに燃費や安全性、快適性などがどう変わるかを何度も高速にシミュレーションして最適設計を実現することが目標です。

引用元:https://www.r-ccs.riken.jp/jp/fugaku/pi/kadai8

 

 

②「環境適合型機能性化学品」(2020年8月時点、進行中)
 SDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)が国連主導で設定されるなど、環境問題への対応が産業競争力の強化への必須の要件となっている。本課題では、付加価値額が全産業の約1割を占める化学産業で中核をなしているポリマー材料の環境適合化を目指す。環境の改善に資する分離膜の高度化、機能性材料における環境リスク成分の使用削減、そして、バイオ由来樹脂の機能強化のために、全原子MDシミュレーションと自由エネルギー計算を行い有用なポリマー構造を探索する。また、樹脂/金属界面を QM/MM計算で解析し、自動車産業の競争力強化に重要なマルチマテリアル化の促進に貢献する。

③「航空機フライト試験を代替する近未来型設計技術の先導的実証研究」(2020年8月時点、進行中)

 

カテゴリー5:基礎科学の発展

5つ目の課題は「基礎科学の発展」です。

①「宇宙の基本法則と進化の解明」(2020年3月、終了)
 宇宙は約138億年前に超高温・超高密度状態のビッグバンから始まりました。宇宙の膨張により温度が下がるにつれて、素粒子のクォークから陽子や中性子がつくられ、陽子と中性子から水素やヘリウムといった軽い元素の原子核ができました。一方、宇宙には正体不明のダークマターが存在し、陽子や原子核など普通の物質の数倍あることが分かってきました。まずダークマターが重力によって集まり、そこに普通の物質が引き寄せられて星や銀河が誕生しました。このような素粒子から宇宙までスケールをまたがる現象の精密な計算を、スーパーコンピュータ「富岳」で実現します。さらに、その精密計算と大型実験・観測のデータを組み合わせて宇宙の基本法則の手掛かりを見つけ、ダークマターの正体や金などの重い元素がどこでどのように合成されたのかなど、多くの謎が残されている宇宙誕生と進化の解明を目指します。

引用元:https://www.r-ccs.riken.jp/jp/fugaku/pi/kadai9

 

 

②「シミュレーションで探る基礎科学:素粒子の基本法則から元素の生成まで」(2020年8月時点、進行中)
 宇宙を支配する基本法則と物質の成り立ちに関わる大きな謎にシミュレーションを通じて挑む。新しい基本法則の探究から、複雑な原子核の理解、激しい天体現象を通じて起こった元素合成の解明まで、素粒子・原子核・宇宙物理の中心的な課題を取り上げ、富岳の計算能力を最大限に活かして早期に成果を得る。我が国が中心となって推進する実験・観測プロジェクトとの密な連携体制を組み、相互の成果を最大化する。

 

③「全原子・粗視化分子動力学による細胞内分子動態の解明(2020年8月時点、進行中)

新型コロナウイルス関連への活用

開発初期段階ではスーパーコンピュータ「富岳」の共用開始は2021年度の予定になっていました。

しかし、この度の「新型コロナウイルス」は国難であることから、開発・整備に支障がない範囲で「富岳」の計算資源を優先して提供し、また実施される研究開発に対してできる限りの技術的サポートを行うことで、新型コロナウイルスによる被害の軽減に貢献すべく取り組むこととなりました。

実際に「富岳」が活用されている「新型コロナウイルス」に対する研究課題は以下となります。

①「富岳」による新型コロナウイルスの治療薬候補同定

②「「富岳」を用いた新型コロナウイルス表面のタンパク質動的構造予測

③「新型コロナウイルス関連タンパク質に対するフラグメント分子軌道計算

④「パンデミック現象および対策のシミュレーション解析

⑤「室内環境におけるウイルス飛沫感染の予測とその対策

これら以外にも各国から要請を受けスーパーコンピュータ「富岳」のリソースが使われています。

まとめ

これまで、「富岳」が受賞して項目・仕様・活用事例をみていただきました。

かなり長い文章になってしまいがお読みいただきありがとうございます。

現在、スーパーコンピュータ「富岳」は限定的な稼働になっています。つまりまだ本領を発揮していません。

「富岳」の開発の関係者からは「今後世界のスーパーコンピュータを席巻していくのは「富岳」である。」という声も多数出てきています。

今後の「富岳」の活躍と「富岳」を活用した事例の成果が世のためになることを祈っています。

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